僕は彼らの行為に「NO!」と言えるだろうか?

ガッシャーーーーン!!!

とあるライブの途中、ギタリストが勢いよくステージを去り、楽屋に戻っていった。その様子に観客はもちろん、ベーシストとして一緒にステージに上がっていた僕も驚きを隠せない。何が起こっただろう?ギターの弦が切れたのか? いや、そうではないみたいだ。ギターは、ステージに投げ出してある。なにやら様子がいつもと違う。何が起こったのか、さっぱり分からない。直前までライブは盛り上がっていた。激しめの曲に観客たちは、ヘドバンをし、ダイブをしていた。ステージ上の僕たちも観客たちもテンションが上がりまくっていた……はずだった。途中で中断する理由、ギタリストが楽屋に駆け込む理由が全く見当がつかない。残されたメンバーは全員、ギタリストの様子を見に楽屋へと戻った。

楽屋ではギタリストがイラついた様子で、椅子に座っている。彼の眼は大きく開かれ、拳を固く握りしめていた。彼は激怒していた。

「あいつら、ふざけやがって!!!」

彼の怒りは収まらない。しかし、僕らを待っている観客たちがいる。彼女らをいつまでも待たせるわけにはいかない。ライブハウスのスタッフにも迷惑がかかる。続行するにも中断するにも、きちんと説明しなければいけない。僕らは、ギタリストにその理由を尋ねた。

 

彼の激怒の理由。それは、ダイブの狙い撃ちだった。ロックバンドのライブに行くと分かるが、曲に合わせて踊ったり、ジャンプしたり、頭を振ったりと様々な行為がある。これによってバンドと観客が一体になるのだが、危険な行為もある。それが、ダイブ。ダイブとは、ジャンプして前に突っ込む行為。ただ突っ込むだけでも危険なのだが、肘をたてるとプロレスのエルボードロップとなり、怪我をしてしまうのだ。多くのファンは、その危険性を知っているから、前の人を傷つけないように配慮し、ダイブをしライブを楽しむ。実際に、僕らのライブでもそうやって楽しんでくれていた。しかし、今回は違った。曲のダイブをするタイミングで、複数人が申し合わせて、1人の女の子を標的にダイブをしたのだ。そう、ライブ中にいじめがあったのである。

1人の女の子を標的に、曲に合わせて、複数人でダイブをする。なんて卑劣な行為だろうか? それがギタリストの目の前で起こり、ギタリストは続けることはできないと判断し、楽屋に引っ込んだのだ。彼が激怒するのはもっともだ。僕らのステージが利用されたことに、僕も怒りを覚える。しかし、僕らはステージに戻り、演奏を続けなければいけない。その時、ライブハウスのスタッフから楽屋に内線が入った。僕らは、ことの顛末を伝え、すぐにステージに戻ることを伝えた。そして、僕らはステージに戻った。

ライブ再開前に、ボーカルから危険行為の禁止について伝える。予定していたセットリストからダイブ曲は変更。それ以降、危険行為は行われなかった。ライブ後、ライブハウスの副支配人とのミーティング。僕たちは、ライブを中断したことを謝罪した。しかし、

「君たちのあの時の行動は、あれでよかったんだよ」

と副支配人。危険行為があれば、やめさせる。それもバンドの仕事なのだということを、その時に学んだ。

 

以前、BUCK-TICKのドキュメンタリー映画『バクチク現象』を観た。その映像の中に、ライブを中断させるシーンがある。観客が盛り上がりすぎて人が倒れたりして、危険だと判断し、ライブを中断しているシーンだ。

「それは、良くない」

ボーカルの櫻井敦司はハッキリと観客に伝える。これは、勇気のある言葉だ。というのも、彼らに注意することによってファンを減らしてしまうかもしれないからだ。実際に僕らが注意したあと、彼女らはライブに来なくなった。しかし、そんなことは関係ない。自分たちのライブが安心して行えるよう、その態度を示す。僕のバンドのギタリストもそうだったが、ライブのセーフティに関する断固とした態度を示していた。その勇気を持つことの大切さを彼らは僕に教えてくれたのだ。

 

僕は今、セミナーやイベントの運営統括をしている。そこで意識をしているのは、絶対的なセーフティだ。セミナーやイベントは、セーフティな場であるからこそ、楽しむことができる。だから僕は、そこを誰にとっても安心ができる場所にしたいと思う。参加者は大人だから、過去のライブのようなあからさまなイジメというものはない。しかし、不愉快にさせる人は少なからず出てくる。残念ながら、参加者にマウンティングをしたり、スタッフにセクハラをする著名人もいるのだ。そうした人たちに、ハッキリと「NO!」を示すこと。その勇気を持つことが、セミナー運営には大切であり、それが出来てこそ、みんなが安心できる場が創れるのだ。少なくとも、僕はそう感じている。セーフティに対する断固たる態度。彼らから教えてもらったこの態度を、これからも貫いていきたい。

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